スピードが求められるからこそ、いい仕事をするために必要な目的意識

スピードは諸刃の剣

ビジネス環境は常に変化しています。
特に最近は、IT化やシステム化、グローバル化にダイバーシティ・・・等々、その変化は目まぐるしいものがあります。

そうした変化するビジネス環境において、共通して重要と言われるのが『スピード』
「とにかくどこよりも先に」「とにかくやってみる」「スピード感を持って・・・」と、スピード重視で物事が進んでいきます。

それ自体は、情報化社会、国際競争社会などを背景にイノベーションを求めていく現代の厳しいビジネス環境においては、至極当たり前のことだと思います。
ただ、スピードは諸刃の剣です。
力量やノウハウがないのに、とにかく乗り遅れるなだとか、とにかくやれといったことで何かをやろうとした場合、チャンスもある反面、ミスやトラブルといったことが起きるリスクも高まります。
車などでも、スピードを出せばその分コントロールが難しくなり、それに見合った運転技術が必要となります。そうした技術がない者が、運転してスピードを出せば、事故の・・・最悪の場合は、第三者を巻き込んだ大惨事を起こすリスクが高くなります。

ビジネスや仕事においても、力量やノウハウといったいわゆる運転技術が伴わないのにとにかくスピードという感覚に陥ると、このようなトラブル(=事故や惨事)が起きるリスクが高まります。
もちろん、ビジネスや仕事において、想定外の問題や出来事が起きることは珍しくありません。なので、多くの現場では、「それはやむを得ないこと」と考えがちです。そして、確かにそうした事象もあるでしょう。しかし、スピード重視で物事を進めていこうとした場合、発生する問題や出来事の多くが、スピードの出し過ぎによるものであることが往々にしてあります。つまり、当人たちは、「想定外」と思っているけれど、客観的に見れば「想定内」の出来事だったりするのです。

ということで、今回はスピード重視に囚われ過ぎた場合に起こりうる職場の生産性を下げたり、組織風土を悪くする事象について考えてみたいと思います。

プロ意識

プロとはどういうこと?

「プロ」「プロフェッショナル」・・・私たちも比較的よく使う言葉ですが、「プロ」というと、スポーツ選手のことなどと、どこか特別な人に当てはまるものという感覚を持っていたりしないでしょうか。

「プロ」「プロフェッショナル」の意味ですが、辞書を引くと、以下のように出てきます。

ある物事を職業として行い、それで生計を立てている人             〈大辞泉〉

ここからわかること・・・それは、「何らかの物事をして、それで生計を立てていれば、皆プロである」ということです。

ということは、「仕事をしている人は全員、その人が携わっている仕事のプロである」といえるのです。決して、プロというのは、スポーツ選手などに限るというものではないのです。

しかし、比較的プロというイメージを持ちやすいスポーツ選手や料理人など一部の職業を除き、実際の仕事の場において、「自分がその仕事のプロである」という意識を明確に持って仕事をしている人がどれくらいいるでしょうか。

「配属されたらこの仕事だっただけなんで・・・」
「この仕事は、そもそもやりたい仕事じゃないんですよ」
「いざやってみたら、何だかイメージと違って・・・」

などと、いろいろな理由はあるのでしょうが、そのような気持ちで仕事をやっている限り、少なくとも「自分は、この仕事のプロだ」というプロ意識が生まれてこないことだけは間違いないでしょう。

そのような人たちが、「とにかくスピード感を持って・・・」ということで、急き立てられ、あるいは、焦って仕事をした場合、事故や惨事(=ミスやトラブルなど)が起きる可能性が高くなるということは、容易に想像できるでしょう。
そう考えると、こうしたことから起きたトラブルを「仕事をしていればそうしたことも起きるよ。それはやむを得ないことだよ」と片付けていいものか・・・甚だ疑問になってこないでしょうか。しかし、意外と、このプロ意識というもの欠如からくるものを、仕事上のやむを得ないものと捉えてしまっていることが多いのではないかと感じるのも事実です。

プロ意識を持つために

では、どのようにすれば、自分が「自分の仕事のプロである」という自覚を持つことができるのでしょうか。そのことを考えてみたいと思います。

プロであるという自覚をためにどうすれば良いか・・・最終的には、個々の意識の問題になりますので、絶対にという方法はなかなかないと思いますが、私は、その方法として次の2つの方法があるのではないかと考えています。

職場や組織の環境

1つめは、職場、組織の環境についてです。
つまり、職場の上司や先輩、そして同僚がプロ意識を持って仕事をしている環境であるかどうか・・・です。

往々にして、上述したような、とにかくスピード感を持ってということが重視されるけれど、トラブルがよく起きるという職場や組織においては、このような感覚が薄いように思います。

何もすべてが完璧である必要はないのです。いや、そんなことを言っていたのでは、それこそいつまで経っても、仕事や事業が進んでいかないでしょう。だから、多少力量や経験、スキルということに難があったとしてもとにかくやっていくしかないのです。
ただ、そうした時にこそ重要なのが、プロ意識・・・。
力量不足や経験、スキルが足りないということであっても、このプロ意識があれば、いろいろ調べたり、誰かの力を借りるなりといったことで、その足りないところをどう補っていくかを考えていくはずです。
しかし、プロ意識という感覚がなければ、とにかくやるしかないということになって、足りない部分を補うことなく、事を進めていってしまうということがおきるのではないでしょうか。そう考えると、そうした足りない部分を理解し把握して、足りない部分がある場合は、スピード感が大事であるとはいえ、少しスピードを落としてみる・・・。こうしたことも、自社にとっても、そして何よりも顧客にとっても、結果的に負のもの引き寄せない処方箋だったりするのではないでしょうか。

で、プロ意識があれば・・・ということに話を戻しましょう。
プロ意識が重要というお話をしてきましたが、そうは言っても、人間誰しもが、最初からそうしたプロ意識というものを意識して仕事に取り組めるわけではありません。プロスポーツのように、プロかアマチュアかが明確になっていて、アマチュアの中で「プロになりたい」と意識して日々取り組んでいる人が、プロ契約を結びましょうということになるわけではありませんから、極論を言うと、プロとアマチュアの境目が、ほとんどの仕事では曖昧になりがちだということもあるでしょう。だから、ある意味それは当然のことなのかもしれません。そう考えると、やはり、プロ意識というものは、意識して植え付けていくしかないものだと言えるでしょう。

そうした時に重要な役割を果たすのが、職場、組織といった環境だと言えるのです。
上司や先輩が、プロ意識を持って仕事に取り組んでいる環境であれば、その職場や組織に、常に「何のために」「顧客の役に立つ」といった話や仕事の進め方が拡がっていれば、知らず知らずに望ましい仕事の仕方や姿勢を身につけていける可能性が高いでしょう。これが、一つの理想的な組織風土であり強い組織であると言えるでしょう。だから、その職場でプロ意識を持って仕事をする人をいかに増やしていくか・・・このことが組織として大切なことだと言えるのです。

が、現実は、このような理想的な組織ばかりというわけではありません。残念ながら、プロ意識を持っている人が少ない、あるいはいないというところもあるわけです。いわゆる受け身、指示待ちの組織などです。そして、自分の所属する組織が、このような環境であるかどうかは、自分でどうこうするというわけにはいかないという側面もあるわけです。そう、ある意味、他人や運に任せるしかないのです。

で、2つめの方法となるわけです。

自分自身の意識の持ち方

2つめの方法は、どういうものか・・・というと、それは、「自分自身の意識の持ち方」です。
こう書くと、上に書いた「最初からプロ意識というものを意識しているわけではない」という話と矛盾してくるようですが、決してそのようなことはありません。そういう人が少ないというだけで、少数かもしれませんが、自らプロ意識を持って仕事に取り組める人はいるのです。ちょっとしつこいようですが、プロスポーツの世界に飛び込んでいく人たちは、その典型と言えるでしょう。誰かに教えてもらったわけでなく、自ら「これでめしを食っていきたい」「自分のプレーで誰かを喜ばせたい」などといった意識を、アマチュア時代のどこかの段階で持ったのです。だから、誰でも「仕事のプロになる」と心に決めればよいのです。その仕事がどんなことであろうと・・・。

そのためには、どうすればよいのか・・・。
そのためには、次のようなことに気づくということも一つの方法であると、私は考えています。
「どのような些細な、または単純な仕事であっても、その仕事の目的、先にいる人のことを意識して、今の自分にできる最大限のプロとしての仕事を提供しようとする」ということです。

例えば、「お茶出し一つにしても、その時の気候などをふまえ、どうすればお客様に美味しく気持ち良くお茶を飲んで頂けるかを考えながら、お茶を入れてお出しする」「電話の取り次ぎにしても、いかに相手をお待たせしないで、たらい回しにしないで、相手の用件が満たせるかを考えて対応する」「コピーをとって会議の資料を用意するように頼まれたときに、A4、A3・・・大きさが違ったり、縦、横、異なる資料があった場合に、どのように資料をセットすれば、会議の参加者が資料を見やすいか」などを考えて、その仕事に取り組むのか。それとも、単に作業として行うのか、もっというと「何で自分が・・・」みたいな気持ちを持って取り組むのか。という違いです。

こうした意識の積み重ねが、結果的にプロとしての仕事になっていくのではないでしょうか。
そして、こうした意識の積み重ねでプロになっていくということは、他人や環境に関係なく自分で形にしていくことができるものなのです。
だから、そう考えると、仕事のプロになることは、自ら意識すれば誰にでもできることといえます。

プロとして仕事をするのか、それともアマチュアとして仕事をするのかを選択するのは、自分自身であることを理解しましょう。
そして、会社や組織は、1つめにあげた組織風土や職場環境を作れるよう仕組みを作っていきましょう。

そうしていけば、スピード感を持って仕事や事業を進めていった時に、事故や惨事が起きる確率が格段に減ることでしょう。
スピードを出すには、プロとして力量や経験、スキルが必要・・・このことを覚えておきましょう。

事なかれ主義

あの人はいつもそうなんだよね・・・

「あの人は、いつもそうなんだよね」 というように言われる人がいます。
このような言われ方をされる場合 、ポジティブなことで言われるよりも、たいていあまり良くないことで言われることが多いでしょう。

例えば 、「その人が対応すべき遵守事項ができていない」「誰かのせいにする」・・・など問題のある言動をしているのに、なぜか糾弾されることがなく、周りが不満や疑問を感じていても「いつもそうなんだよね」ということで済まされていくようなケースです。
そして、このようなことが起きる場合、その当事者は、元気でとにかく行動する人だったり、数字にはシビアだったりして、幹部や上司の受けが良かったり、それなりのポジションに付いたりしていることがあったりします。

そういう職場や組織で、「とにかくスピード感を・・・」という環境があるとすると少し厄介だったりします。

根本的な問題に目をつむり、事なかれ主義が蔓延してくるのです。

周りの人が、「まあまあ」という感じでカバーをするのです。 その人に人望があり、その問題に気づいているのであれば良いのですが 、そうでなかった場合、組織の上に立つ人間の反応や指摘することによる面倒くさいことを周りが避けるようになり、とにかくやることだけが優先されるようになる。つまり、問題の本質が隠れていくことになるのです。

事なかれ主義が事を生む

それはそれで、目の前で起きている事象に関しては、一見クリアしていくことになるでしょう。 しかし、その根本的な問題の解決や改善にならないだけでなく、本来、スピード感を持ってやらなければならないほんとうの目的すら曖昧になっていく可能性があると言えるでしょう。

なぜなら、本人は問題であるという自覚を持つことはないでしょうし、そもそも問題があることを周りがカバーする段階で本来あるべき姿ややり方とは異なることをすることになるため、本人はもちろん、組織としても、正しいやり方ではないものを正しいと思ってしまう可能性があります。そうして間違った仕事の進め方を覚えたり、誤った認識のまま仕事をしていくことになったりするのです。
こうなると多くの場合、その時起きた事象以外にも、同じようにやるべきことをしていない・・・などといった事象が起きたりしている可能性が高いのです。だから、「あの人は、いつもそうなんだよね」と言われるともいえます。そして、そうなると全てのことを周りが気づいてカバーすることは難しくなります。また、よくあるのは、そうしたことで問題が起きた場合、その人は上の受けが良いので、その原因が別の理由にすり変わってしまうということになったりするのです。こうして「事なかれ主義が進んでいく」と、表面上うまくまわっているように見えているけれど、裏で問題が起きていて、ある時、問題が大きくなって顕在化することになったりします。そして、スピード重視であればあるほど、こうしたことが組織で起きていた場合、その問題の大きさや重さがどうなっているか・・・容易に想像できるでしょう。

だから、「あの人は、いつもそうなんだよね」というような人や事象を組織で生まないために、「とにかくスピード感を持って」いう言葉に惑わされてその場を取り繕うのではなく、各々が自分の義務に対し、プロ意識を持ち責任を持つ。そのために原因を明らかにして、必要な追及と改善を求め、そのうえで周りが協力しカバーしていく・・・そうした風土を作る必要があるといえるでしょう。

まとめ

さて、いかがだったでしょうか。

新しいものがどんどん生まれ、目まぐるしく環境が変化する現代のビジネスにおいて、皆が意識しなければならないスピード感・・・。
このスピード感重視の風潮の中、ついつい忘れがちな、組織において働く人が気をつけるべきこと、そして、だからこそ会社や組織が、それをふまえたうえで、どのような組織風土作りをしていくことが望ましいのかについて考えてきました。
職場の人間関係やメンタルヘルスなどの労務相談を受ける中で、よくある日常の出来事から仕事における「プロ意識」と「事なかれ主義」ということについて、その背景にあるビジネスでのスピード重視という側面からお話をさせて頂きました。そして、これらに共通した大切なこととは、常に目的意識を持って、仕事に臨むということ・・・つまり、目的意識を持って仕事に臨めば、「プロ意識」を持つことにつながり、「事なかれ主義」に陥らないと言えるわけです。仕事に対する目的意識の醸成する方法に関しては、以前のコラム「仕事には目的意識が必要・・職場に目的意識を浸透させるために必要なこと」で詳しく書かせて頂いていますので、合わせてご覧ください。
皆が気持ち良く仕事をし、会社が成長していくために、ぜひ、働く人も、会社も、個々の立場で考え、参考にして頂ければと思います。
特に、どうしてもスピードを重視せざるを得ない急成長している企業や人材不足で外から幹部を採ってくることを頻繁にしている企業などは、こうしたことが起きやすい環境にあると言えますので気をつけて頂ければ幸いです。

ヒューマシー人事労務研究所では、こうした視点を取り入れて組織風土の改善・職場の活性化を実現するための人事コンサルティングを提供しています。
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