部下をほめることの効果とは

さて、管理職の皆さん、貴方は部下のことをどれくらいの頻度で褒めていらっしゃるでしょうか?

私たちは、誰かから褒められると嬉しい気持ちになります。褒められて嫌な気持ちになる人はいないでしょう。このことに異論を挟む方は、そういらっしゃらないと思います。

ところが、職場において、部下をきちんと褒めている管理職は、意外と少なかったりします。

「照れくさい」「何を褒めていいのかわからない」「褒め方がわからない」 ・・・理由はいろいろとあるようです。中には、「どうして自分が部下に気を使わないといけないんだ」などと、褒めることは、甘やかすことだったり損だったりと考える人もいたりします。

こうしたことからも、それだけ褒めるということは、口で言うのは簡単ですが、実際に行うとなると意外と難しいことだと言えるでしょう。

そこで、今回は「褒める」ということについて考えてみたいと思います。

褒めることの効果

先にも書きましたが、私たちは、誰かから褒められると嬉しい気持ちになります。
また、やる気が出たり、相手のことを好意的に捉えたり・・・と、ポジティブな気持ちも感じます。
さらには、「褒めて伸ばす」という言葉の通り実際に仕事の技能が伸びるということも起きたりします。

どうして、このようなポジティブなことにつながるのか・・・

そのことは、自然科学研究機構生理学研究所(愛知県岡崎市)の定藤規弘教授(神経科学)らの研究グループが米オンライン科学誌プロスワンに発表した実験結果で証明されています。

実験は次のように行われました。

研究グループは右利きの成人男女48人に、キーボードの1から4のキーを使った5桁の数字を、左手で決められた順番でできるだけ速くたたく運動を覚えてもらい、運動直後に(1)自分が褒められる(2)他人が褒められるのを見る(3)自分の成績をグラフだけで見る――の3グループに分けた。

 翌日、覚えた順番通りにキーボードを何回たたけるかを実験すると、運動直後に自分が褒められたグループは前日の練習から成績が20%伸びた一方、ほかの2グループは13~14%の伸びにとどまった。
<2012年11月8日付 日本経済新聞より>

日本経済新聞の記事にも書かれていますが、その時に影響を与えていると考えられたのが「ドーパミン」

人は、嬉しいことがあると脳内でドーパミンという物質が分泌されます。
このドーパミンが分泌されている時に脳内で起きること・・・それは、「強化学習」と言われるドーパミンが分泌される前に行っていた行動を強化するということなのだそうです。
上述した実験でも、このドーパミンによる強化学習が影響したと考えられるのでしょう。

また、このドーパミン、別名「快感物質」とも呼ばれており、精神を安定させて、気分を高めてくれる効果があるそうで、今抱えているストレスを解消する効果もあるとか・・・
そして、精神の安定ということでいうと、褒められると、ドーパミンと一緒に「セロトニン」という物質も多く分泌するそうです。このセロトニンという物質は、心のバランスを保つのに必要とされる物質で、これが不足するとうつ病を発症するともされていますので、このセロトニンが多く分泌されるということは、心が落ち着くという効果も期待されるとのことです。

このように、褒められることによるポジティブな効果は、科学的にも説明がつくとされているのです。

そして、もう1つ、上述したようにドーパミンは、人が嬉しいと感じた時に分泌されます。
嬉しいと感じる時という観点でいうと、そういうことは、褒められる時に限られるわけではないはずです。仕事でやる気やモチベーション(動機づけ)につながる一つの方法が「褒める」ということなのだと言えるのです。

では、褒める以外の方法としては、どういうものが考えられるのか・・・いろいろあると思いますが、すぐ思いつくのが、「報酬」ということでしょう。昇給、賞与、昇格・・・などといったものです。「よく頑張ったから」とか「こいつは貴重な人材だから・・・」ということで、報酬をあげて報いるということが多いですが、その時にもドーパミンなどが脳内で分泌されているのです。だから、報酬で報いるということも、やる気やモチベーションをあげるという意味で理にかなっていることだと言えるのです。
しかし、その時にちょっと気をつけたほうが良いことがあります。
それは、報酬で報いたらOKと思わないということです。仕事で成果を出したり、貢献した人に報酬ということで報いるということは必要なことですが、報酬を与えたとしても褒めるということも合わせて行うことが必要なのです。

なぜならば、報酬を与えるということは、報酬をもらった時は嬉しいと感じるけれど、しばらくすると、昇給した給与が当然となったり、昇格したとしてもその地位が当然となってきます。賞与ももらった時だけで嬉しさはなくなっていきます。そうするとドーパミンも分泌されなくなっていくわけです・・・つまり持続性はないということです。報酬によって持続させようとすると、常に昇給や賞与、昇格といった報酬を与え続けなければならなくなるわけですが、現実的にはそんなことは無理でしょう。

また、違う観点で考えると、報酬を与えるということは、会社や組織の全員に・・・ということも、現実的は難しいものがあると言えるでしょう。

こうしたことをふまえて考えた時に、「褒める」ということの意味が大きくなってくるわけです。

つまり、やる気やモチベーションをあげるということでいえば、「報酬」も「褒める」も同じ効果があると考えられるということです。しかも、報酬は毎日与えることはできないけれど、褒めることは毎日、しかも一日何回でもできるのです。そして、報酬を与えられないけれど・・・という人たちに対しても、人件費ということを心配せずに、管理職である貴方が「褒めよう」と決意すれば、部下のやる気やモチベーションをあげることができる可能性が高いのです。

こう考えると、部下を褒めることの意義が理解して頂けるのではないかと思います。ぜひ、部下を褒めるということを意識して頂くと良いと思います。

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褒める時に抑えるポイント

ここまでで褒めることの効果を理解して頂いたと思いますが、冒頭でも書かせて頂いたとおり、いざ部下を褒めようと思うと「照れくさい」「何を褒めていいのかわからない」「褒め方がわからない」・・・など戸惑う方も多かったりします。そこで、褒める時に抑えるポイントは何か、そのことを考えてみたいと思います。

さて、褒める時に一番大事なことは何でしょうか?

それは、「事実を具体的に褒める」ということです。

「何だそんなことか・・・」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実はこれ、きちんとやろうとするとなかなか難しかったりするのです。
では、「事実を具体的に褒める」ために必要なことは何でしょうか・・・
そのために必要なこと・・・それは、部下一人一人の仕事に関心を持たなければならない、ということです。
部下一人一人の仕事に関心を持って初めて「具体的に褒める」ことができるのです。

想像してみてください。
もし、上司から褒められたとしてもその内容が具体的でなく、「いつも頑張ってるね」とか「君、いいね」などのようなふわっとした褒め言葉であったとしたら・・・
おそらく、最初の数回は言われた部下も喜ぶと思いますが、そうしたふわっとした褒め言葉が何回も続くようであれば、「何のこと言ってんだろう」とか「いつもの口癖・・・」くらいに思うようになり、だんだん形式的でおべっかを言われているというような感じの受け取り方になり、しまいには不信感を持たれてしまう・・・というような逆効果になる可能性もあるのではないでしょうか。

だから、部下に関心を持ちきちんと見て、良いところがあればそれを具体的に伝えて褒める、このことが重要なのです。

しかし、部下の人数が多くなってくると、関心は持っていてもなかなか一人一人を常に見ているということは、物理的に難しくなってきます。
そうした時に、覚えておくと良い方法がいくつかあります。

最後にそうした方法をいくつかご紹介したいと思います。ぜひ参考にしてみてください。

まず1つめは、「感謝の言葉を伝える」ということです。

貴方が感じた感謝の気持ちは、それだけで事実です。それを部下にきちんと伝えましょう。
上司から感謝されて嬉しくない社員はいないでしょう。
そう、感謝することも褒めることなのです。

次に、「誰かが言っていたその社員についての良い話を伝える」というのもあります。

例えば、「あ、君のこと、部長が『頑張ってる』と褒めてらしたぞ」とか、「○○社の△△さんが、いつも良くやってくれてるとおっしゃってたよ。私も鼻が高かったよ」・・・など、他人から聞いた良い話を貴方から伝える、こういうことも効果的です。

いかがでしょうか?

褒めるのって、なかなか難しいですが、意識すれば褒め方はいろいろできるのです。

また、褒めることを実践するうえで、何を言ったりしたりしたらいいのかイメージしやすいのは、自分が言われたりされたら嬉しいことを思い浮かべ、照れ臭いかもしれませんが、それを部下に対して言ったりしたりすることです。そうすれば、きっと貴方自身の言葉や態度で褒めることになり、きっと部下にも貴方の気持ちが伝わることでしょう。

ぜひ、部下のやる気やモチベーションをアップさせるため、そして何よりも部下の成長のため、部下一人一人の良いところを具体的に褒めるようにしましょう。

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