経験者を採用する時に抑えておくべきポイントとは

人材の流動化がいわれて久しい。
転職は珍しいこととされていた時代は遙か昔で、今ではキャリア形成において、転職は一つのステータスであったりする。

このような環境は、人材を必要としている中小企業や成長著しいベンチャー企業などにおいては、優秀な人材を獲得するチャンスであり、望ましいことといえるでしょう。
しかし、現実的には、想定通りうまくマッチングがはかられて、企業にとっても転職者にとってもハッピーなケースばかりではありません。

そこで、今回は会社が経験者を採用する時に抑えておくべきポイントとはどういうものなのかについて考えてみたいと思います。

大切にしていることの確認

どの会社にも社是や経営理念、あるいは行動基準といったものが存在しているでしょう。
いわゆる「うちの会社はこのために存在しているのですよ」という大義名分とでもいうものです。
そして、これらは、その会社で働く人一人一人が共有し、日々の仕事をするうえで常に判断基準とすべきものといえます。

変化の激しいビジネス環境においては、柔軟に判断や行動をしていく必要があります。その際に、判断に迷ったり、難しい判断が必要となることもあるでしょう。そうした時に一つの拠り所として立ち返り、その判断で自社が大切にしていくべきことに沿った行動ができるかどうか、都度確認をすべきものといえるでしょう。

「消費者に安全で健康になる食品を届ける」といった経営理念を掲げている会社が、製品を作る時に添加物を使うかどうか、値段が高いけれど品質の高い原料を使うのかどうか、あるいは、「利用者の心に寄り添って最高のサービスを」と言っている会社が、マニュアルをどう作るのか、安全をどう図っていくのか、効率化と人がやることのバランスをどう考えるのか・・・といった場面での判断や行動の基軸になるのは、その会社が大切にするべき社是や経営理念、行動基準というものと言えるでしょう。

そういう意味でも、会社が事業を進めていくうえで大切にすることを明確にしていく必要があるわけです。
そして、そうしたものは、会社が、社員一人一人が正しく認識するように常に伝え、徹底していかなければならないものです。

こうした大切にするべきものの共有は、新卒採用が主流で一から教育していく仕組みがある会社であったり、経営者が直に社員と接していくことできる規模までの会社であれば、比較的浸透させていきやすいですが、経験者の中途入社が主流、あるいは社員数が急増している会社では、なかなか難しい課題であったりします。

また、経験者は、社会経験が長く、これまで仕事をしてきた環境はまちまちです。そして、仕事における価値観は、その人が育ってきた職場環境によって形成されます。なので、経験者を採用する場合、自社の価値観と異なる価値観を持った人を採用する可能性があるのだということを認識しておく必要があるのです。

休まずに徹夜してでも仕事をすべきという環境で育てばそういう価値観になるし、どのような手を使ってでも何が何でも勝つことが大事という環境で育てばそうした価値観になるのです。逆に、ワークライフバランスを大切にし職場のみんなで協力して成果を出すという環境で育てば、そういう価値観になるでしょう。これらは、どちらが正しいとか、間違っているとかという問題ではなく、その人が働くうえでどういう価値観を持ち、何を大切に考えて仕事をするのかという違いなのです。
経験者を採用するということは、こうして既に仕事についての価値観や大切にすることを、各々が持っている人を採用するということでもあるのです。

たまに、応募書類で経歴を見て「こいつはすごい」とか「うちが欲しかった人材だ」と思い込んでしまったり、経験者が少ない、あるいは資格が必要という職種の募集であった場合、経験者または有資格者ということが最優先となってしまい、1回だけの面接で採用を決めてしまったり、酷い場合は面接する時点で採用することを気持ちのうえでは決めていたりするケースがあります。
このような場合、まずその応募者の仕事に対する価値観や仕事で大切にしていることの確認はできていないでしょう。
たまたま自社の大切にしているものと、その人の仕事で大切にしていることや価値観が一致することはあるかもしれませんが、そんなことは稀です。
「いや、面接でうちの社是や経営理念を伝えて確認している」おっしゃる方がいるかもしれませんが、それでは確認できないのです。考えてみてください。「うちの経営理念はこれこれこういうもので、賛同してくれますか」と聞いたとすれば、ほぼ誰しも「はい」と答えるでしょう。それでは駄目なのです。
いろいろな角度から、そして複数の目で、その応募者の本質的なものを探り確認していく必要があるのです。

よくあるケースとして、業務の経験はあるのだけれど、入社してみたら価値観が会社に合わずにうまくいかないということがあります。
そして、その社員が管理職として入社をしていた場合は、これまで会社が大切にしてきた価値観と異なる指示や指導をし、さらに大きな混乱を招いたりするのです。そのようなことが起きた場合、会社としてはかなり望ましくない状況になっているといえます。なぜなら、そのことによって起きていることは、入社した経験者だけの問題で済まないからです。その人の部下となった社員の不満や不信感が生まれる、場合によってはメンタルヘルス不調など体調を崩す、最悪の場合は有為な人材が会社を辞めてしまうということが起きてしまう可能性が高いのです。そして、何よりもそうした状況が怖いのは、そのような状況を招いた経験者を採用した会社への不満や不信感を生んでしまうということなのです。

ですので、経験者を採用する場合は、経歴や経験はもちろん重要ですが、それだけなくその人の仕事で大切にしていることをきちんと確認する。
そして、そこに自社の価値観とのギャップを感じたのであれば、どんなに経歴や経験が素晴らしい人でも採用しない勇気を持つこと、このことが大切なポイントであるといえるでしょう。

プレゼンに騙されない

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昨今、プレゼンテーションツールが充実してきたためか、グローバル化が進んできたためか、見せ方や伝え方が、これまで以上に重視される傾向があります。
確かに相手に伝えるべきことを正しく伝えること、わかりやすく伝えることは大切なスキルです。しかし、伝えるだけでなく、その中身が重要であることに異を唱える方はいないでしょう。

最近、採用面接をしていて、あるいは経験者が入社してきて気づくこととして、このプレゼンテーションがとてもうまい人が増えてきたということです。それはそれでプレゼン能力の高い優秀な人材が来てくれたと喜ぶべきことではありますが、その一方で、このような人の応募があった時に、よくよく確認しなければならないことがあるのです。

それは、本当にその人が、その仕事に自ら携わったことがあるのか、さらには中身をきちんと理解しているのかということです。

とかく、うまいプレゼンテーションを聞いていると、その人がとても素晴らしい人に見えてきます。それで中身がきちんと伴っていれば良いのですが、例えば、大企業で管理だけして実務は部下に任せっきりだったとか、基本的にコンサルタントに依頼して自分はそれを上にあげていただけという場合、プレゼンテーションとその人のできることがすり合っていないということがあったりするのです。
だから、見た目や見せ方だけでなく、その人の実力をきちんと確認する必要があるのです。

そのための手法はいろいろとありますが、必ず抑えておくべきポイントとしては、より具体的にその人自身がやってきたことを訊くということです。なるべく、こちらが主導権を持っていくつかの細かいポイントを確認するようにしましょう。

例えば、新規ビジネスを作り出したという経歴を持っている方には、どういうきっかけでそのビジネスを思いついたのか、そして具現化するうえで一番の障害は何で、本人がどういうことをして乗り越えたのか…など、実際に頭や手足を動かしていないと、あるいは本質を理解していないと答えられない質問を考えて訊く。こうすることで、その人がほんとうに実力を持っているのかどうか確認することができるでしょう。

そうしないと、相手が得意な話を聞いて、本質的な実力を見間違えるということはよくあることです。
特に、うまくいった実績や成果の話を朗々と話すだけの人は注意が必要です。

運の良くない人を採らない

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松下幸之助氏は、採用面接で必ず「貴方はこれまで運が良かったですか」という質問をされていたそうです。

長年人事に携わってきて思うことの一つに、人によって運の良い人とそうでない人がいるということがあります。そして、運の良くない人は、その運を入社した会社に持って来てしまうということがあったりするのです。このことは、正確なデータがあるわけではありませんが、多くの人の採用と社員の労務対応をしてきた経験から、間違いなくそうしたことはあるといえます。

採用活動していると次ような経歴の方に出会うことがあります。

名門といわれる大学を出て、大手有名企業に就職し、素晴らしい仕事を経験。いわゆるエリートと呼ばれるような経歴です。そうした生活を送っていたある時、ベンチャー企業から条件の良い誘いに乗って役員として転職します。しかし、転職した会社が業績悪化で倒産。その方は倒産するかもしれないということがわかった段階で転職活動し別の会社に幹部として入社されます。ところが次に入社した会社も業績が芳しくなくリストラにあって退職・・・というような経歴の方です。

少しわかりやすいように極端に書きましたが、このような経歴の方、実際にいらっしゃったりするのです。

そして、そのような方を経歴重視で採用をした場合、必ずとは言いませんが、その方を配属した部門、あるいは会社で、トラブルや不祥事が起きたり、業績が落ちたりすることがあります。それまで業績好調であったのにです。
原因は、その方にあるわけではないのですが、何故かそうしたことが起きてしまうのです。

こうしたケースを何度も目にしていると、これは、何だかスピリチュアル的な話になってしまいますが、やはり運というものの影響を受けているのかなと感じたりするわけです。

では、どうしてこのように運の良くない人を採ってしまうと、あまり良くないことが起きてしまうのか・・・そのことを少し考えてみたいと思います。

その理由ですが、私は2つあると考えています。

まず1つめですが、それは「行動する時に利己的であることが多い」ということです。

上述したような経歴の方を見ていると、「これをやりたい」とか「こうした夢がある」というような理由でなく、「良い条件で誘われたから」とか「役員であるのに危なくなると自分が先に降りてしまう」といったような行動をしています。つまり利己的なのです。
このような場合、自分では気づいていなくても、結果的に周りとの軋轢やトラブルを起こしてしまっているということがあったりするのではないでしょうか。
だから、その人が行くところ、何かが起きてしまったりするのだと考えられます。

次に2つめの理由ですが、それは「ついていないこと、不運を、人のせいにしている」ということです。
会社の業績が悪くなったのも人のせい、そして転職してしまったのも誘われたせい・・・というように、自分のこととして捉えていないケースが多いように思います。その結果、「運がなかった」とか「それは、〇〇のせいで」などと考え、主体的に前向きな行動をしていなかったりするのです。その結果、能動的な行動ではなく事務的な対応で済ましたり、問題を誰かに押し付けて結果的に問題の先送りになってしまったりするのだと考えられます。

ですので、運の良くない人は、良くない運を運んでくる可能性が高くなると考えられるのです。
そういう視点から、運の良くない人は採らないということは、採用する時に抑える必要のあるポイントといえるでしょう。

そして、それは、冷静な目で履歴書を見ればある程度わかりますし、松下幸之助氏ではありませんが、面接での質問を工夫することで判断することは可能なのだと言えるでしょう。

入社した後に気をつけること

これまで書いてきた採用する時に抑えておくべきポイントを確認し、「この人なら」と考えて経験者を採用したからといって、必ず会社や職場にマッチするとは限りません。
その理由は、いくら気をつけても書類や数回の面談だけ全てを把握することはできないということもありますが、それ以外に入社した後の受入れ側の勘違いによって生じてしまった結果ということが意外と多かったりします。

具体的どういうことか説明していきましょう。

何が常識で、何が自社のルールなのか

経験者というと、受入れ側には「即戦力」という期待が生じます。
その結果、「こんなことは知っているだろう」とか「できて当然」などといった感じで入社した人と接するということになり、説明や引き継ぎを簡単に済まそうとしてしまうのです。いや、もう少し正確にいうと「その実務において知っていたり、できて当たり前のこと」と「自社独自の手続きやルールであるもの」を混同し簡単に済まそうとしてしまうということです。

その実務に関しての法律や業界共通の手続きをはじめとした知識やスキルなど、それはどこの会社でやっても同じ=常識であることであれば、その経験者はいちいち説明されなくても困らないでしょう。
しかし、受入れ側が常識だと思っている業務や手続きの中には、自社の業務手続きなどでそのやり方やルールが決まっていることがあります。特にパソコンやシステムを使っての仕事にそうした事象が多いよう感じます。
例えば、「資料の保管」「交通費精算」「電子申請」・・・などです。
どうでしょう?そうしたものまで知っていて当然と説明を簡単に済ましてしまい、実務においてそうしたものが関わっていることで、その人がうまく対応できないと、「あの人、経験者と言っておきながら、全然駄目じゃん」などというケースが意外とあったりしないでしょうか?
そして、その入社した経験者は、会社や職場に馴染めなくなっていく。

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こうしたことで、実はせっかく優秀で経験豊富な人材を採用できたのに、「全然ダメだった」「期待外れだった」などと判断してしまうということは結構多いのです。これでは、入社した経験者にとっても、会社にとっても不幸といえます。

だから、経験者を採用した時は、受入れ側がきちんとそうした事態を避けるための体制作りをする必要があるといえるでしょう。何故受入れ側なのかというと、何が自社独自のやり方やルールでどういうものがあるのかは、受入れ側でないとわからないからです。

こうしたことをふまえ、受入れ側である会社は、何が独自のもので、何がその業務で共通のものなのかを、予めきちんと整理し、それを既存の社員、特に経験者を受入れる部門の社員には共有し、入社してきたらきちんと教えることを明確にしておく必要があるといえるでしょう。
また、誰かを受入れる時の心構えとして、「相手のことを考えて困らないように配慮する」といった人として大切な気持ちを、職場の一人一人が持つ、そうしたことを徹底することも重要なことだと思います。

ヒューマシー人事労務研究所では、このような採用や入社後の定着に関するコンサルティングも実施しております。
新卒採用、中途採用、あるいは障がい者採用など採用に関するご相談があれば、ぜひお気軽にお問合せください。