中小企業の健康経営
健康経営とは
「健康経営」という言葉をご存知でしょうか。
「健康経営」とは次のような考え方です。
「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても大きな成果が期待できる」との基盤に立って、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること
<健康経営研究会ホームページより>
※「健康経営®」は、健康経営研究会の登録商標です。
そして、近年、少子高齢化による医療費の高騰、働く場におけるメンタルヘルス不調者の増加などといった社会問題をふまえ、この健康経営という考え方への関心が高まっています。
その一例を申し上げると・・・
●一部金融機関による健康経営に取り組む企業への融資における優遇
などといった動きが出てきており、それに比例して具体的に取り組む企業が増えてきています。
しかし、一方で、まだまだ「健康経営なんかは大企業が取り組むこと」といった受け止め方をする方も多く、中小企業も含めた日本の企業全体への拡がりというのはなかなか進んでいかないということも、現実として存在しています。
ところが、この健康経営というものは、その内容をしっかりと見ていくと、大手企業だけでなく、全ての企業に有効な取り組みである、いやむしろ中小企業こそ、その効果に気づいて取り組めば、大きな成果が得られるものであるということがわかります。
そこで「中小企業の健康経営」という視点で、さまざまな角度から健康経営にどう取り組めばよいのかを考えてみたいと思います。
健康経営に必要な考え方
これまでも、多くの企業では、社員の健康について、健康診断を実施するなどして取り組んできたことと思います。
では、こうした取り組みと健康経営による取り組みとは何が違うのでしょうか?
端的に言えば、こうしたこれまでの取り組みは、健康経営による取り組みの一部ではあるけれど、イコールではないということになります。
これまで取り組んできたこともとても大切なことなのですが、それは「健康管理」というものであって、「健康経営」という観点では、似て非なるものだと言えるのです。
どういうことかと申しますと、「健康管理」は、健康診断の結果等から、今のあなたの体の状態はこれこれこのような状態ですよ・・・「☓☓について異常が見られるので、病院に行って精密検査を受けてくださいね」とか「きちんと治療を受けてくださいね・・・」だとか「メタボの傾向があるので、運動しましょう」「食事に気をつけましょう」という指導がされる・・・といったものです。
上述したように、これはこれでとても大切なことではあるのですが、これが、「経営」ということにどれだけつながっているか・・・というと、多くの人が「・・・う~ん?」と考えてしまうのではないでしょうか。
そう、健康経営とは、こうした健康管理をいかに活用し、社員に健康で生き活きと働いてもらい、いい仕事をしてもらうか・・・。こうしたことにより、自社の経営にポジティブな影響を与えていくこと・・・だと言えるのです。言い換えれば、会社が、経営的な観点で社員の健康にいかに関心を持ち、どういう働きかけや取り組みを行うか・・・そのことに真剣に取り組んでいくことが会社の業績アップにつながるのだという考え方になります。
もう少し具体的に説明しますと、社員が、体調が悪く休んでしまうことはもちろんですが、休むまでではないけれど、疲れていたり、どこか体調が思わしくない状態では、集中力や注意力が低下して仕事の生産性が低下していく、その結果、同じ仕事をしても時間がかかってしまったり、ミスが生じやすくなったりして、仕事のクオリティが下がってしまうという可能性が出てくることは容易に想像できるでしょう。なので、こうした生産性や仕事のクオリティの低下を起こさないために、社員に健康で生き活きと働いてもらうことが必要であるということになるのです。
そして、このことに気づけば、健康管理は大切だけれど、それだけでは不十分であるということがわかってくるのではないかと思います。
ちなみに、体調が悪く実際に会社を休んでいる状態のことを「アブセンティーズム」と言い、休むまでではないけれどどこか体調が思わしくない状態のことを「プレゼンティーイズム」と言います。そして、アブセンティーズムによる生産性の低下とプレゼンティーイズムによる生産性の低下を比較すると、プレゼンティーイズムによる生産性の低下のほうが大きく、アブセンティーズムよる生産性の低下の2倍の生産性の低下が生じると言われています。その理由は、アブセンティーズムも実際に休んでいるので影響はあるのですが、現実的に休んでいるということで、その人がいない前提で仕事を組み立てられるけれども、プレゼンティーイズムの場合は、その当人が出社しているので、当然一人の戦力として考えるのだけれども、実際は体調が思わしくないことにより、集中力が落ちやすく、生産性が上がらないため、周りへの影響も大きく、結果的に職場全体の生産性低下が大きくなるということになるのです。このことも健康経営を考える時に、重要なポイントとなりますので、覚えておいて頂くと良いと思います。
さて、話を元に戻しましょう。
私たち働く人が健康を害する要因ということを考えていくと、確かに運動不足や食生活、不規則な生活など、私生活によるものもあるのですが、例えば不規則な生活ということを考えた時に、その原因は、私生活によるものだけなく、過重労働など仕事によるものも出てきます。例えば、毎日残業で帰りが遅く、夕食を夜遅く食べる、睡眠不足が続いている。毎日忙しくて昼食を食べる暇がなく、昼食を抜いたり、食べなかったりする・・・といったようなことです。こう考えていくと、健康を害する要因を考える時、仕事を切り離して考えることはできないということがおわかり頂けるのではないでしょうか。
そのことに気づけば、過重労働はもちろん、職場の人間関係や仕事上のトラブル・プレッシャー・ストレス・・・など、働く場における私たちの健康に影響を与える要因は、たくさん挙げられます。
つまり、こうしたことに対応する人事・労務管理の観点からの取り組みを抜きにしては、ほんとうの意味での健康経営を実現することは難しいということなのです。
では、実際のところはどうなのか?という観点で見ていくと、残念ながら現状の健康に関する取り組みの多くは、健康管理は健康管理、人事・労務管理は人事・労務管理と別々に取り組み、双方ががつながっていないものになっているケースが多いと言えるのではないでしょうか。
だから、社員の健康に関する取り組みは大切だとは思うけれど、なかなか成果が出にくい・・・難しいものというイメージが強くなってしまうのだと言えるのです。
そこで、ここまで見てきた健康管理と人事・労務管理を一体とした取り組みをしていくということがクローズアップされていくるのです。
健康管理と人事・労務管理を一体として考えることにより、「精神的なストレスが溜まっている原因は、職場にハラスメントがあるからだ。では、ハラスメントをなくしていくためには何をすれば良いのか?」「食生活が乱れているのは、仕事で休憩がきちんと取れていないからだ。では、休憩時間をきちんと取れるようにするにはどうすれば良いか」「睡眠不足になっているのは、いつも仕事が遅く残業が多いからだ。では、残業を減らしていくにはどうすれば良いか」・・・などといった考え方ができるようになります。確かに、こうした改善を図っていくことは簡単なことではありません。しかし、健康管理は健康管理、過重労働対策は過重労働対策、ハラスメント防止はハラスメント防止と別々に考えていくよりは、健康管理と人事・労務管理をつなげて考えていくことで、複合的な改善策となり、より具体的な取り組みになっていく可能性が高まります。そして、その結果、取り組んだ成果が生まれやすくなるという好循環につながると言えるのです。
そして、こうした観点で見ていくと、もう一つ気づくことがあります。
それは、今、政府が積極的に取り組み、各企業に意識改革を迫っている「働き方改革」に、これまで見てきた考え方は、さまざまな角度からつながっていくものであるということです。言い換えれば、健康経営こそが、働き方改革を企業が実現していくための一つの大きなヒントであるということが言えるわけです。
健康経営によって得られる効果とは
さて、ここまで健康経営に取り組むうえで大切な考え方について見てきましたが、次にそうした考え方で健康経営に取り組んでいくことによる効果として、どのようなものが考えられるのか・・・について見ていきたいと思います。
社員が健康になる
健康経営によって得られる効果・・・その第一は、「社員が健康になる」ということです。
社員が健康になることによる効果は、何よりも仕事の生産性とクオリティの向上です。つまり、社員が健康になると言うことは、その職場におけるアブセンティーズムはもちろん、プレゼンティーイズムも減ると言うことになり、仕事の生産性とクオリティが高まるのです。
そうなれば、おのずとミスやトラブルも減るでしょうから余分な仕事が生じなくなりますし、短い時間で良い仕事をすることができる社員が増え、残業時間の削減にもつながることでしょう。
また、社員が健康になれば、病院に罹る社員も減りますから、会社の負担する医療費も削減することができるでしょう。
帰属意識の向上
次に健康経営によって得られる効果として考えられるのが、「社員の会社に対する帰属意識の向上」です。
シンプルに考えれば、会社が社員の健康に配慮するということは、社員の側から考えれば、会社は自分たちのことを大切にしてくれるということにほかなりません。だから、当然会社に対する帰属意識は高くなると考えられるでしょう。
その結果、「うちの会社はいい会社だ」とか「この会社で働き続けたい」という社員が増え、会社を辞める人が減るという好循環が生まれてくるわけです。そうなれば、経験や技術の継承や向上につながります。また、人が辞めないので採用を頻繁にしなくて良くなるため、計画的な採用を実践することができますし、何よりも採用費用を削減することができるでしょう。
さらには、会社への帰属意識の高い社員が増えれば、受身で仕事をするのではなく、「自分が顧客や会社のために何ができるだろうか」と能動的に考え行動する社員が増えてくる可能性も高くなります。それが、仕事の生産性やクオリティの向上につながっていくのではないでしょうか。
人手不足の解消
さて、三つめの健康経営によって得られる効果ですが、それは、「人手不足の解消」です。
これまで見てきたように、健康経営に取り組むということは、社員の健康に配慮するということですが、真剣に取り組んでいけば、それは健康を軸にしてはいるけれど健康管理にだけに止まらず、ワークライフバランスの実現できる働きやすい環境といったものが実現されていくことになり、上述した会社を辞める人が減ると同時に、必要な時に募集をかければ、多くの入社希望者が応募してくるということが期待できます。そうすれば、多くの入社希望者の中から、自社の経営理念や価値観に合った優秀な人材を選考することが可能になり、単に頭数だけで人手不足を解消するのではなく、より優秀な人材を確保したうえで人手不足を解消できるという望ましいことが実現できる可能性が高まるのです。
また、そうした人材が確保できれば、「経験者が増える」「会社としてノウハウの蓄積ができる」ということも期待できるでしょう。
顧客満足度の向上
そして、最後の健康経営によって得られる効果として考えられることとして挙げられるのが、「顧客満足度の向上」です。
これについては、改めて説明するまでもないと思いますが、これまで見てきた「社員が健康になる」「社員の会社に対する帰属意識が向上する」「人手不足の解消による経験者の増加やノウハウの蓄積」によって仕事の生産性向上や仕事のクオリティの向上が実現されれば、おのずと貴社に対する顧客の満足度も高くなることでしょう。そして、このような形で顧客満足度が高くなった貴社に対しては、顧客も長いおつき合いをしていきたいと考える可能性が高くなりますから、最近何かと話題になっているような顧客からの無理や過剰な要求を断ったとしても、即取引停止といったような過激な事態になること少なくなることでしょう。その結果、顧客からの無理や過剰な要求に対応するための過重労働の発生といったようなことも起きにくくなってくるではないでしょうか。
さて、いかがでしょうか。
健康経営によって得られる効果を、改めてまとめると以下のとおりとなります。
健康経営によって得られる効果
②社員の会社に対する帰属意識の向上
③人手不足の解消
④顧客満足度の向上
これらを通じ、「生産性とクオリティの向上」「経験のノウハウの蓄積」が生まれ、その結果、業績にもポジティブな効果が出てくるのです。
さて、これらは、理想論に過ぎないでしょうか?それとも十分実現可能なことなのでしょうか?
それについて、私ははっきりと申し上げます。
実現可能なことである!と・・・
なぜならば、このことに気づいて(あるいは、このように考えているわけではないけれど)、人(=社員)を大切にした経営をしている企業が存在しており、そうした企業は、ほぼ間違いなく上述したような効果を得ていらっしゃるからです。
このことについては、皆さんもネットなどで調べられれば、簡単にそうした企業を見つけることができるでしょう。
中小企業こそ健康経営が必要
ここまで、健康経営とはどういうもので、健康経営に取り組むことで得られる効果について見てきました。
それで、既にお気づきの方もいらっしゃると思いますが、この健康経営・・・決して、大手企業だけのものではないのです。
いや、むしろ、中小企業こそ健康経営が必要であると言えるでしょう。
なぜならば・・・
●中小企業は、一人一人の役割が大きく核になる社員が担う仕事の影響度が大きい
そうした核になる社員が、もしも健康を害して倒れてしまったら・・・
会社の事業におけるその影響度は計り知れない
●人手不足が事業の継続や発展に悪影響を与える可能性が高い
しかし、健康経営に取り組むことにより、社員の定着率が高まります。
そして、募集をすれば応募者が来るという好循環が生まれれば・・・
●金融機関によっては、融資の優遇措置が受けられるサービスもあり、資金面でも好循環が生まれる
などと、ちょっと考えただけでも、このように会社の経営上のリスクを減らし、会社や事業の成長発展につながる、そして何よりも、社員からはもちろん、顧客や社会から尊敬され大切にされる可能性が高まるのです。
そして、こうしたことは、中小企業のほうがダイレクトに事業にさまざまな形でポジティブに働いてくるのではないでしょうか。
だから、中小企業こそ、今、健康経営に取り組む必要があると、私は考えているのです。
さらに付け加えれば、まだ多くの企業がこのことに気づいていないからこそ、このことに気づき、いち早く取り組みを始める中小企業は、単なるお金儲けだけでない成長発展が期待できるのだと思ったりするわけです。
では、こうしたことを理想論に終わらせずに、実際に会社や職場で実現していく方法について、次から考えていきたいと思います。
健康経営にどう取り組めばよいのか・・・
トップの覚悟
最近、人事に関する課題対策や新たな取り組みを推進していく時、その成否を左右するポイントとして大切だと言われているのが、トップの覚悟
トップ自らが、それをやりきるという強い意志を持つこと、そして、そのことを従業員や社会に対してきちんと発信し、それを率先して推進していくこと・・・このことが重要なのです。
「残業を減らすぞ!」とかけ声を発するけれど、トップや管理職がいつも遅くまで残って仕事をしている、残業しないで早く帰宅する社員に対し「暇なのか」というような発言をする・・・などといったことがよくあります。
さて、このような場合、従業員は、会社が本気で「残業を減らずぞ!」と考えていると感じるでしょうか・・・。
いや、そう感じる可能性はきっと低いことでしょう。
実は、このようなことは、人事に関する取り組みをする時に、よく起こっていることなのです。そして、これが、そうした人事に関する課題対策や新たな取り組みがなかなかうまくいかない大きな原因だったりするのです。
だから、健康経営を実際に自社に根ざしていこうと考えるのであれば、トップがそのことに気づき、「何が何でもこれをやりきるぞ!」と強く決意し、その取り組みをトップ自らが率先垂範する・・・このことが大切なのです。
先に挙げた健康経営銘柄の選定基準においても、以下のように経営理念・方針という項目が、最初のチェック項目として挙げられています。
経営理念・方針
・「従業員の健康保持・増進」の位置づけ
・経営方針などで社全体の「従業員の健康保持・増進」についての明文化
・「従業員の健康保持・増進」について経営トップ自らによる従業員や社会への発信
そして、実際、健康経営銘柄に選定される企業は、健康経営を最初から意識しているいないにかかわらず、一社残らず、会社のトップが「社員の健康に配配慮する」「人を大切にする」ということに真剣に取り組んでいらっしゃるのです。
ですので、まずは、トップが「社員の健康に配慮し、皆が健康で元気に生き活きと働くことができる会社にする」と決意する・・・このことから始めることが肝要なのです。
健康管理をしっかりする
具体的な取り組みの一つとして、まず大切なのは、健康診断をきちんと実施し、社員にもきちんと受けさせるということでしょう。
つまり、まずは健康管理をきちんとやりましょう!ということです。
ちなみに、健康診断に関しては、労働安全衛生法第66条にて定められており、事業者による健康診断の実施が義務付けられていることはもちろん、労働者も健康診断を受けなければならないと、健康診断を受けることが義務付けされています。
第66条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない。
2~4(略)
5 労働者は、前各項の規定により事業主が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指 定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医 師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明す る書面を事業者に 提出したときは、この限りではない
-以下略-
では、どうして健康診断を会社が実施し、労働者はその健康診断を受ける必要があるのでしょうか。
病気というものは、必ずしもすぐに自覚症状があるものとは限りません。
特に生活習慣病とされる病気の多くは自覚症状がなく、知らず知らずのうちに病気が進行しているということも少なくありません。そして、生活習慣病というものは、その名が示すとおり、個々の生活習慣に紐づいて発症するものです。で、この生活習慣というものは、もちろん私生活によるものもたくさんありますが、働く人に関しては、その労働環境(ex.重量物を持つことが多いとか、高温のところでの作業が多いとか、有害物質を扱うことが多いとかといった物理的な要素の他、深夜勤務や長時間労働などといった過重労働といったものも含む)と密接に関連しています。なので、自覚症状があるないにかかわらず、健康に問題がある社員に、例えば、重量物を持つような・・・、あるいは、高温の作業場で・・・仕事をさせることが、その病気を悪化させてしまう可能性も出てくるわけで、会社はそうした事態を予防するためにも、社員の健康状態を把握し、適切な仕事の与え方や職場における配置をしていく必要があるわけです。そう、いわゆる安全配慮義務というものです。
また、病気の多くは、早期に発見できれば、完治させることができたり、仕事を休まずに治療を受けられたりするものもたくさんあります。さらに、最近は、「がん等の疾患に罹った人が仕事を辞めずに治療を受け続けることができるようにしていくことが必要」との考え方が注目を集めています。
そして、企業としても、そうしたがん等のような疾患で、貴重な人材が会社を辞めざるを得なくなることを避けるということは、人手不足が叫ばれる今日(こんにち)においては、より重要なことだと言えるでしょう。しかし、いざ、がん等の疾患を患った社員を雇用し続けていくということは、企業にとって負担が大きいことも事実です。特に中小企業とっては、こうした負担の問題は、大きな課題となってくるでしょう。
そう考えると、余計に、病気の早期発見、早期治療につなげていくということが重要だということに気づくのではないでしょうか。
だから、健康診断をきちんと実施していくということが大切だと言えるのです。
そして、こうしたことは、会社にとってだけでなく、私たち働く人にとっても、健康で生き活きと仕事続けながら人生を謳歌していくという観点で見ても、とても大切なことだと言えます。
なので、労働者にも健康診断をきちんと受ける義務があるのです。
また、可能であれば、簡単なものでも構わないので、ストレスチェックの実施もしていくと良いでしょう。
健康診断も、ストレスチェックも、義務云々という堅苦しい観点だけで考えなくても、会社は従業員の、働く人自身は自らの健康状態を定期的に把握し、病気の予防に活かしていくというだけでも意義のあることだと言えるのではないでしょうか。
何のために健康経営に取り組むのか・・・
さて、健康経営に限らず、何か新しいことに取り組もうとすると、何だか特別な取り組みをしなければならないような気になったりします。そして、知らず知らずのうちにその取り組みをすることが目的となり、本来その取り組みをすることで実現しようとしていた本来の目的を見失ってしまうということが起きがちです。
その原因には、いろいろなことがあるとは思いますが、その一つとして、「とにかくやってみよう。ダメならやめればいいんだから・・・」というような傾向が、最近の職場において強くなっているということがあるのではないかと思っています。つまり、「新しいことに乗り遅れるな」とか「スピードが大事」という視点を持たなければならないという強迫観念からか、「自社にとって、どうしてそれが必要なのか」「どういう成果を出すためにやるのか」という「目的意識」というものが曖昧になってしまうということがあると思うのです。
どのように目的意識を根ざしていくかということは、コラム「仕事には目的意識が必要・・・職場に目的意識を浸透させるために必要なこと」に譲るとして、ここではシンプルに、「何のために健康経営に取り組むのか」という健康経営に取り組む理由を見失わないということを、まず忘れないで頂きたいと思うわけです。
何のために健康経営に取り組むのか・・・というと、各社それぞれの状況で異なってくるとは思いますが、これまで見てきたことをふまえると、概ね次のような目的というものが挙がってくるのではないでしょうか。
●人手不足の解消
●生産性の向上
●医療費の抑制
人手不足の解消であれば、社員が辞めないために何をするのか。
生産性の向上であれば、アブセンティーズムやプレゼンティーイズムが生じないために何をするのか。
医療費の抑制であれば、社員が病気や体調不良にならないように(可能であれば、社員の家族に対しても)どういう働きかけをしていくのか。
といったようなことを考えていくことになるわけです。そうすると、同じ健康経営と言っても、その取り組む施策はおのずと異なってくるはずなのです。単純に「他社がウオーキングをしているからうちも・・・」というようなことにはならないのです。
ですので、「何のために健康経営に取り組むのか」という目的意識を明確にし、それを社内で共有すること・・・このことが大切なのです。
コストか投資か
ここまで健康経営とはどういうことなのか、健康経営に取り組んでいくにはどのように考え何をしていけば良いのか・・・ということについて考えてきました。
ところで、ここまで確認してきたことをふまえた時に、健康経営・・・つまり、社員の健康に配慮するためにかかるお金や時間は、コストなのでしょうか。
いかがでしょうか。皆さんは、どのようにお考えになりますか?
健康経営ということに関連する発言として、次のようなものがあります。
わが社は予防措置に資源を割くことを決めた。うまくいった他の投資と同様に、安定的なリターンが得られるからだ。リターンには2つある。より健康的で生産性が高く献身的な従業員と、ヘルスケア全体のコストの顕著な低減である。ヘルスケアのコスト 削減、アブセンティーイズムの減少、生産性の向上により、従業員の健康に投資する1ドルに対して4ドルのリターンがある。業界の標準的なヘルスケアの支出と比べてわが社は平均して4%少ない。ヘルスケアへの支出は2001年から2009年の期間 で2100万ドルを超える削減となった。
これは、 ジョンソン・エンド・ジョンソン 会長兼CEO ウイリアム C. ウエルドン氏が、2011年1月~2月に、ハーバード・ビジネス・レビューへ寄稿された論文で述べていらっしゃる言葉です。
これを読んで頂いて、もうおわかりのことだと思いますが、健康経営=社員の健康に配慮するためにかけるお金や時間は、コストではないということなのです。
では、何なのか・・・それは、「投資」であると言えるでしょう。
「コストである」と考えると、それにかかるお金や時間は、かかるもの・・・というように考えます。ということは、「減るもの」「なくなるもの」というように感じてしまいがちです。
しかし、「投資である」と考えると、それにかかるお金や時間は、減ってしまうかもしれないけれど、その使い方によっては、何らかの効果やポジティブな影響を与える可能性がある・・・つまり、「増える」というふうに考えることができます。言い換えれば、投資をする際に、いかに活かしていくか=運用を考えるということです。
この視点に立てば、自社が健康経営に取り組んでいく時に、費用面や労力だけでなく、課題の解決や達成したい姿を実現するために、そうした費用や労力をいかに活かしていくのか、さらに言えば、できるだけ少ない費用や労力で、より大きな成果を出していけるのか・・・このことを考えて施策を練っていくことが肝要だということがおわかりになるでしょう。
健康な経営の実現を・・・
さて、ここまで中小企業の健康経営についていろいろと検証してきましたが、いかがだったでしょうか。
中小企業こそ健康経営に取り組んでいくことの意義にお気づき頂けたでしょうか・・・。
そして最後に、健康経営に取り組んでいく意義に気づき、実際に健康経営に取り組んでいこうとした時に重要となってくるポイントについて改めて確認しておきたいと思います。それは、上述した「健康管理と人事・労務管理をいかに融合させていけるのか」ということです。
繰り返しになりますが、これまで会社で健康というと、健康管理の観点で考えがちで、医学的な観点での治療や予防といったことに目が行きがちでした。もちろん、それはそれで大切なことなのですが、フィジカル、メンタル両面からの健康に影響を与える職場や仕事上のさまざまな人事・労務問題にも手を打っていくことができれば、より社員が健康で生き活きと働き続けることができると言えるでしょう。
そして、それが実現できれば、社員の健康だけでなく、組織の健康も向上することになるでしょうし、その結果、会社の経営や事業も健康になっていく・・・つまり健康な経営が実現できるのです。
そうなれば、働く人も、会社も元気になり、生産性が高くクオリティの高い仕事を提供でき、顧客も喜ぶ・・・というWin-Win-Winの理想的な経営を実現できるのではないでしょうか。
これこそが、健康経営の神髄なのです。
弊所ホームページでは、こうした社員が健康になり、生産性とクオリティの向上、人手不足の解消、顧客満足度の向上につながる人事に関する取り組みや考え方をコラムで掲載しております。自社の課題と照らし、合わせてご覧ください。
ヒューマシー人事労務研究所では、「中小企業にも健康経営を・・・」をテーマに、生産性向上や人手不足解消につながる組織風土作りのコンサルティングや人事制度構築・規定整備、社員教育などを核とした健康経営の導入実施支援を行っております。<サービス内容の詳細はこちらから>
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